道具学への招待 vol.50 ヒトの力を教えた鉈

i050.jpg 昨今の閉塞感は、機械への依存が主因、と私は見てきました。そうと気付いた結婚間もない頃に、「本当に私が世の中を嫌になったら、人里離れたところに行って二人で暮らそう」と妻に覚悟を迫っています。
 不可欠と思う道具を一式背負って出かける覚悟ですが、荷物を多くすれば遠くまで行けません。軽くしすぎて忘れ物をしたのでは後の祭りです。さあどうするか。包丁はどの一本に、斧は、と対話は幾夜にも及びました。そのたびに必ず選んでいたのがこの鉈です。
 母が使っていたものを私は11歳のときに引き継ぎ、半世紀前に持ち手を付け替え、用途を広げて使い込んできました。
 私は二度も唐突に会社を辞めながら事前に妻にも相談していません。道具を駆使する生活を尊重したおかげか、たとえ一人になっても何とかなるとの覚悟や決意は、この使い慣れた道具が授けてくれたように思います。小鳥は道具すらなしに生きています。
(森孝之 2009/05)

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