道具学への待 vol.79 脳の手先

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 「人間だけが『他の道具をつくるための道具』をつくる」(英国・科学史チャールズ・シンガー)という。私の場合、筆記具は殆ど道具のデザイン過程で使うので、私にとって筆記具は道具をつくるための道具ということになる。私はイメージスケッチを脳画と名づけたのだが、脳で浮かんだイメージを紙に写し、それがまた脳に刺激を与えるやりとりの中で進行する。手は脳の出先機関であり、筆記具は脳の手先だ。だから芯が短くなったりインクがかすれたり、イメージが出にくくなった時も筆記具のせいにしてすぐ取り替える。オイルショックの時、私はトイレットペーパーではなく、ぺんてるサインペンを求めて走った。たくさんたまった私の手先はリユースでもなし供養でもなし、できればもう一度花を咲かせてあげたい。
 コンピュータなら筆記具は不要だが、ソフトには第三者が介在していて、私と筆記具のインチメートな間柄とは別の問題がある。最近の自動車で分かるように、他の道具をつくるための道具によってデザインの質が変わるのだ。

(佐野邦雄 2011/10)

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