道具学への招待 vol.104 矢立

f0107583_1084690.jpg 武士は懐中の懐紙に、商人は大福帳、控帳にさっとメモをとるのに使った、昔の携帯筆記道具。
 鎌倉の骨董品店にふらっと立ち寄ったとき目に留まった。店主いわく、「へこみがあるのでお安くしてあります」と。穴が開いてるわけでもなく、その使用感がたまらなく気に入って、また珍しく筆筒の中に筆も残っていたので購入した。銅製で墨壷には乾ききった黒い真綿のようなものが入っていたので、それに湿らせた筆先をちょいとつけてから使ってみたら薄い字が書けた。この安物の矢立、まだ使えるぞと主張するかのようだった。よし、これをもって旅に出てみよう。
 ところで今風の矢立はさしずめスマートフォンなのだろうか。旅に出るにもこれ一つ持っていれば、メモも取れるし、通信もできる。必要な情報は何でも得られる凄いもの。しかしSNSの進化とともにつながり依存といった中毒患者の発症も心配される昨今、便利さに埋もれてしまうことのないよう生活したい。

(小俣邦夫 2013/11)

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