道具学への招待 vol.111 ウィングナット

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 自転車に個性を吹き込むのは、フレーム以上にパーツの設えである。それぞれが個性の固まりのような時代物のフランス部品を選び抜いて調和あるかたちにまとめ上げる作業は、難しいが奥も深い。中でもユレー(Huret)のウィングナットは、なかなかにオシャレで気に入っている。二つの指でキュッとねじ込むだけでフレームに車輪のハブを固定できる優れもので、クイックレリーズという今様の機械構造が定着する前の“工芸品の時代”の象徴ともいえる。
 自転車にはサスペンションがないけれど、何時間走っても疲れない。スポークと呼ばれる極細の金属棒がホイールとハブをつなぎ車体を吊り支える構造と、フレームのしなりが相まって、独特の乗り心地が生みだされる。シャーッという微細な回転音を聞きながら風を切るサイクリングは、日常を忘れさせる至福の時となる。

(蓮見孝 2014/06)

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