学への招待 vol.141 野球のボールと108の縫目

i141.jpg いよいよ今年もプロ野球が開幕したが、日本人は野球が大好きだ。誰もが知っているシンプルなボール。手のひらに納まるほどの小さな存在なのに、人々に与える夢は大きい。このボール、実はひとつひとつ手作りだということに驚いた。ひょうたん型の2枚の牛の革を縫い合わせるのだが、縫糸を通す穴の数がなんと108つあるという。そう言えば108は煩悩の数だ。故榮久庵憲司氏の著書「道具の思想」(PHP研究所)に、108の煩悩を殷々たる鐘の音色に美しく転化した「除夜の鐘」は、実に見事なデザインで、そこに「かたち化する心」を見る思いがするという一文がある。もともと米国生まれの野球のボールの縫目108にも、そこに通じるデザイン観が潜んでいるのではないか。材料である牛革の種類も、革自体の感触も、縫糸の締め具合も、それらすべてがボールを手に取る人の技に大きな影響を与える。ピッチャーも、バッターもそのボールの状態如何で、ストライクをとったり、ホームランを打ったりすることにつながるほどの影響が出るという。実に繊細でしかも、人間の手技ならでこそなせる108の縫目には、野球の大きな醍醐味を支えている、「影の役者」が隠されているのだろうか。

(小野寺 純子 2017/04)
協力:株式会社 一光スポーツ

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